エッジコンピューティングとは?そのメリットや事例、課題、またクラウドコンピューティングとの違いを分かりやすく解説します

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最近耳にすることが多くなったエッジコンピューティングとはどういう意味なのでしょうか。本記事では、その意味からメリットや事例、課題、またクラウドコンピューティングとの違いを交えて分かりやすく解説します。

 

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングとは、デバイスやサーバーの近くでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念です。データをデータセンターに送信して処理・分析を行うのではなく、データが生成された場所の近くでその作業を行います。リアルタイム分析、機器データの分析などをエッジで行い、そのコンピューティング作業結果のみをデータセンターに送信する方法です。

インターネットに接続されるデバイス数と、それらによって生成されるデータ量は従来のデータセンターやサーバールームでは対応できないほど急速に増加しています。すべてのデータをデータセンターに送信する場合、帯域幅の制限による遅延や予測不可能なネットワークの切断などにより、データ活用をリアルタイムに行えなかったり、せっかく収集したデータを失ってしまうかもしれません。企業はこうした課題に対応するため、エッジコンピューティングを活用しています(1)

エッジコンピューティングは、遠隔地のサーバーにアクセスするクラウドコンピューティングとは対象的な概念であり、病院、工場、小売店などで多く活用されています(2)
 
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エッジコンピューティングの仕組み

エッジコンピューティングは、一般的に5つの仕組みがあるとされています(3)

1.データの収集
ネットワークのエッジでIoTデバイスやセンサーなどによってデータを収集します。

2.データの処理
収集したデータをエッジデバイスにより処理(データのフィルタリング、圧縮、集約などを行い、クラウドに送信するデータ量を削減)します。

3.データの分析
エッジデバイスでは、リアルタイムでのデータ分析ができ、また分析したデータに基づいて意思決定を行うことができます。

4.データの保存
処理したデータの一部をローカルに保存することで、クラウドへのデータ送信量を削減します。

5.データの転送
必要なデータのみをクラウドに送信することでデータ送信量を削減するだけでなく、さらなる処理や分析を行います。

また、エッジAIと呼ばれるAIの機能や処理をエッジデバイスで実行する技術・手法も活用されます。例えば医療業界においては、手術のリアルタイムでの洞察を可能にするため、手術ビデオのストリーミングを使用する機器がAI対応になりつつあります(4)

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの違い

エッジコンピューティングは、データ生成元や利用者に近い場所でデータ処理やコンピューティングを行います。またリアルタイム性やセキュリティー性に優れており、ネットワークへの依存度が低い一方、リソースの制約や管理の複雑さに課題があります。

クラウドコンピューティングは、データ処理とコンピューティングを中央のデータセンターやクラウドサーバーに集中させるアプローチを取ります。高度な計算やデータの集中管理に適していますが、ネットワークの遅延や帯域幅の制約が生じる可能性があります。

Nvidia社によると、リアルタイムデータ処理が必要な場合はエッジコンピューティング、リアルタイムデータ処理が必要でなく、信頼できるインターネット環境がある場合はクラウドコンピューティングを活用するのがいいとされています(5)

また、多くの組織にとってはクラウドとエッジ両方の活用が不可欠です。ガートナーによると、2025年までに企業が生成するデータの75%が集中型データセンターやクラウド外で生成・処理されると予想しています(6)。このことから、データの種類などの状況により最適な方法を選択することが重要となります。

エッジコンピューティングのメリット

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前述の通り、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングは、データ処理のアプローチにおいて異なる特徴を持っています。ここではエッジコンピューティングのメリットを5つ紹介します。
 
  • ネットワークの負荷軽減やコスト削減
  • セキュリティーやプライバシーの強化
  • レイテンシーの低減
  • 障害発生時のリスク軽減
  • 処理スピードの向上

ネットワークの負荷軽減やコスト削減

エッジコンピューティングはネットワークの負荷を軽減できます。
データ送信量が少なくなるため、遅延の可能性を低下させリアルタイムな応答が実現されます。また、オフライン環境でのデータ処理も可能です。

さらに、クラウドの送信するデータ量が削減されることで、クラウドストレージのコスト削減を期待できるでしょう。

セキュリティーやプライバシーの強化

エッジコンピューティングはデータがローカルで処理されるため、外部のネットワークで転送する必要が少なくなります。そのため、データをそのものではなく、分析や洞察のみをクラウドにクラウドにアップロードするため、プライバシーを強化できます。

さらに、エッジデバイスで処理される前や転送中にデータが暗号化されるため、漏洩や不正アクセスのリスクを軽減できます。

レイテンシーの低減

エッジコンピューティングではデータがエッジデバイスで処理されるため、ネットワークを介することなく迅速な応答が可能です。センサーデータの処理時間が短縮されるため、レイテンシーを低減できるでしょう。

レイテンシーの低減は、応答時間の向上だけでなく、ネットワークの混雑や遅延のリスクの軽減にもつながります。

障害発生時のリスク軽減

エッジコンピューティングではデータ処理やアプリケーションの実行がエッジデバイスで行われます。データセンターやクラウドがダウンしても、引き続きデータの処理やアプリケーションの提供を行うことができます。

その結果、データ損失やシステム停止のリスクを軽減できます。 また、ネットワークへの依存度が低いため、障害や遅延が発生しても影響を受けにくいという特長があります。

処理スピードの向上

エッジコンピューティングは、データ処理やアプリケーションの実行をエッジデバイスで行います。データがリアルタイムで処理されるため、応答時間が大幅に短縮されます。

データはエッジ側で処理されるため、ネットワークの遅延やボトルネックの影響を受けにくくなります。 そのため、ミリ秒単位の遅延が重大な影響を及ぼす自動運転車や工場のシステムにおいて幅広く用いられています。

そして上記メリットだけでなく、「データの可視化」「リモート監視」「リモートメンテナンス」「分析」などデータの活用も将来的に期待できます。

エッジコンピューティングの課題

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エッジコンピューティングはメリットばかりではありません。導入には次のような課題もあります。
 
  • コストの増加
  • 作業工数の増大や運用管理の煩雑化
  • セキュリティー対策

コストの増加

まず、エッジコンピューティングにはエッジデバイスやエッジサーバー、ネットワークインフラ、セキュリティー対策などのハードウェアおよびソフトウェアの導入が必要なため、初期費用がかかります。ただ、Nvidia社によるとクラウドコンピューティングのコストと比較し、エッジコンピューティングでは多少のコスト削減が可能な場合もあります(7)

作業工数の増大や運用管理の煩雑化

エッジコンピューティングの導入により、作業工数の増大や運用管理の煩雑化が生じる可能性があります。エッジデバイスやエッジサーバーの設定、監視、保守、アップデートなどさまざまな作業工数が発生することもあるでしょう。

Google Cloud社によると、これらの管理を容易にするツールの活用が成功の鍵となっています(8)。システム構成、ソフトウェアなどのアップデートの実行や、処理作業の際に新しいアルゴリズムのアップデートをデプロイするためには、こういったツールが必要となるでしょう。

セキュリティー対策

エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングよりもセキュリティー性に優れているとされる一方で、ネットワークに接続することは変わりません。そのため、ネットワーク攻撃やデータ漏洩のリスクはゼロではないでしょう。

エッジコンピューティングのセキュリティー対策としては、エッジデバイスの物理的な保護が重要です。また、「ゼロトラスト」の概念で常に安全性を考えるとともに、データの消失や破損、災害時のデータ復旧などに備えた対策が必要です。

以上のことから、エッジコンピューティングにも課題はあるものの、前述した活用メリットは大きいため、一般的にはエッジコンピューティングを活用することが推奨されるでしょう。

エッジコンピューティングが活躍する主な産業

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エッジコンピューティングはさまざまな産業で幅広く用いられています。特に活躍を期待されているのが以下の産業です。
 
  • 製造業
  • エネルギー
  • 医療
  • 交通
  • エンターテイメント

製造業

製造業では、高度な自動化やリアルタイムなデータ処理が求められます。エッジコンピューティングは、製造現場においてデバイスやセンサーと接続し、生産ラインの効率化や品質管理の向上を実現します。

例えば、エッジコンピューティングを活用することで、生産ラインのモニタリングやトラブルの早期検知が可能になるでしょう。生産装置やセンサーからのデータをエッジデバイスで処理し、異常を検知した場合に適切なアラートや警告を発信する、といった使い方ができます。

エネルギー

エネルギー業界では、発電所や送電網、石油掘削装置などにおいて効率的な運用やエネルギー供給の安定性を実現するために、エッジコンピューティングが用いられます。

発電機やタービンなどのデータをエッジデバイスで収集し、稼働状況や効率を監視すれば、機器の異常や故障を早期に検知することができるでしょう。

医療

医療現場では、体温や血糖値などのモニタリング、診断、治療方針などに関するデータをエッジコンピューティングで保存することで、プライバシー向上に役立てられます。

また、センシティブな情報を消失してしまうリスクも軽減できるでしょう。

交通

交通業界では、エッジコンピューティングを活用して、交通管理や運行効率化、安全性向上などに役立てています。

その代表ともいえるのが自動運転車です。自動走行車には、瞬時に情報を処理するためのエッジデバイスが複数搭載されています。

エンターテイメント

AR/VRゲームによる需要の高まりから、エンターテイメント業界においてもエッジコンピューティングの重要性が高まっています。

VRアプリはビジュアライゼーションのために強力な計算能力とストレージを必要としているため、ゲーム用ハードウェアのコストが高いことが普及を妨げています。しかし、エッジコンピューティングが上手く活用されれば、コスト削減が期待でき、エンターテイメントだけでなく教育やホスピタリティ業界においてもAR/VRゲームが一般的に活用される日が来るかもしれません(9)

エッジコンピューティングの活用事例

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エッジコンピューティングの事例をいくつかご紹介します。

株式会社ダイヘンは、生産工程で200以上のマニュアル検査が必要となっており、総生産時間の30%も占めていました。しかし、エッジコンピューティングを活用したリアルタイム分析プラットフォームを導入することで、手作業によるデータ入力時間を年間5,000時間以上削減することに成功しました(10)

また、当社でもお客様のエッジコンピューティング導入を支援しています。
お客様の課題
取得データ量の増加に伴うデータを格納するコスト、レイテンシー問題を気にすることなく工場全体の稼働データ、品質データ、保全データを取得したい。
工場のICT化を始めたものの、現場の要望を受けるにつれて、だんだんと取得するデータ量が膨大になってしまう課題がありました。

そこで、まず階層機能によるエッジコンピューティング対応でデータ収集方法を見直しました。次に第一階層のエッジデバイスにPS6000+BLUE Open Studioを追加することで、第二階層(サーバー)の負荷を軽減しつつ、必要なデータだけを集約できるような環境の構築に成功しています。

製造業DXをエッジで加速させる

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今後、IoT化が進むことによってデータ量はより増加します。従来の環境や機器ではデータを処理しきれず、遅延や停止につながる恐れもあるでしょう。

このような課題を解決できる可能性があるのがエッジの技術です。従来の環境にエッジコンピューターを導入することで、データの取得だけでなく「データの可視化」「リモート監視」「リモートメンテナンス」「分析」などデータの活用も期待できます。

製造現場のDXを加速させる産業用コンピューター「PS6000シリーズ」は、業界最高レベルのスペックを備え、HMIからエッジまで幅広く活用できる産業用コンピューターです。
 
またお持ちのデバイスをすばやくインテリジェント化できる、エッジデバイスに最適なSCADA/HMI「AVEVA Edge」もございます。クラウドにつなげば、SCADAでエッジコンピューティングを実現可能です。
 
製造業のDXに関して不安やお困りごとがある場合は、一度お問い合わせください。まずは専任のスタッフがお悩みをお伺いし、解決に向けてサポートいたします。
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