2021年インダストリー事業のDX新戦略

オートメーション新聞 新戦略インタビュー企画

Pro-face、「なんにでもつながるIoT」ブランドへ

2021年4⽉にシュナイダーエレクトリックホールディングス株式会社の取締役 インダストリー事業部バイスプレジデントに就任した⾓⽥裕也⽒。これまでのキャリアでセンサーから産業機器、産業⽤ソフトウェア、製造業のDXコンサルといった製造現場のフィールドコンポーネンツから上位の基幹システム、経営のコンサルティングまで⼿がけたユニークな経歴を持つ。2021年は製造業はもちろん、社会全体のDXブームがピークを迎えるなか、シュナイダーエレクトリックとしてどのような戦略を描いているのか。またHMIの代名詞とも⾔えるPro-faceをどう活かしていくのか。⾓⽥⽒に話を聞いた。


インダストリー事業部
バイスプレジデント
⾓⽥ 裕也(つのだ ゆうや)

HMI専業からDXソリューションのプレイヤーへ

ーー従来のデジタルのHMI事業に加え、⽇本でFAソリューションの展開を本格化して4年。これまでの⼿応えは︖

(⾓⽥)2017年からシュナイダーエレクトリックのソリューションであるEcoStruxureやAVEVAの産業ソフトウェアを提供していくようになり、HMI専業から取り扱い製品・ソリューションが増えて幅広いポートフォリオを持つプレイヤーとなりました。従来のお客様にはこうした取り組みを提供してきましたがまだ道半ば。そこを加速していきたいと考えています。
特に当社は販売代理店・パートナーと⼀緒にビジネスを⾏っており、取り扱い製品の幅の広がりに合わせ、それに応じた販売計画を⽴てて実⾏していただくことでビジネスが広がっていきます。まずは当社が⾃社の変化を理解して販売代理店・パートナーをもっと⽀えていく⽂化を定着させ醸成していく必要があり、協⼒関係をもっと強化していきたいですね。

シュナイダーエレクトリックの真の強みとは︖

ーー2021年に⽇本のFA事業を統括する⽴場に就任されました。国内⼤⼿のセンサーメーカー、グローバル⼤⼿の産業機器メーカー、グローバル⼤⼿のコンサルティング会社を経てからのシュナイダーエレクトリックです。同じ業界にいてシュナイダーエレクトリックをどう⾒ていましたか︖

(⾓⽥)もちろん会社の存在は知っていました。海外の展⽰会などに⾏くと⼤きなブースを構え、製品ポートフォリオが豊富で、エネルギーマネジメントではグローバルのシェアも⾼く、多くの場⾯で競合となっていました。しかし、国内ではHMIと低圧配電制御機器に力を入れていて、広い製品ポートフォリオを展開しているイメージがなかったため競合という認識はありませんでした。

しかし⼊社に際してよく分析してみると、HMIブランドである「Pro-face」は、⻑年にわたって多くのお客様に使っていただき、販売代理店・パートナーとも良い関係性、リレーションシップを築き、販売チャネルも充実しています。さらに、(株)デジタルとして培ってきた製品と技術、サービスのクオリティーは⾼く、⽇本企業の良さを持ったまま、シュナイダーエレクトリックのグローバル企業としてのお客様に対して新たなイノベーションを実現できるポテンシャルがあり、とても優れた素地を持っている企業であることが分かりました。その⼀⽅で、HMIベースのビジネスのイメージや意識が、ブランディングも含めて社内外に強く残っているのが課題となっています。提供する製品やサービスが変わり、啓蒙を強化していくことで、新しいシュナイダーエレクトリックのイメージが浸透していくと考えています。

製造業各社のDXへの取り組みの現在地

ーーここ数年で社会全体でDXの機運が盛り上がっています。この製造業のDXについてどう捉えていますか︖

(⾓⽥)私⾃⾝、2019年に産業機器メーカーからコンサルティング会社に移り、DXを推進したい企業に対して、特定の製品やソリューションを提供する⽴場ではなく、その企業全体のDXを⼿掛けてきました。そこでは「なんのためにDXをやるのか」「DXであるべきシステムアーキテクチャーや業務、ものづくりのプロセスはどんなものなのか」という、経営者が号令して⾃社のDXを推進していくための要件定義などが多く、経営層の関⼼は経営に直接関係してくるERPをどうするか、2025年の崖をどう⾶び越えていくかといったITの話が中⼼でした。いわゆるFAや製造現場の設備をどうつないでいくかという話は次のステップと認識している企業が多かった印象です。

しかし経営者も、これまでは各事業部から⽉1回データが上がってきて議論していたのが、これをリアルタイムで⾏うことができればスピーディーに経営判断ができると考えていて、それを実現するためには、製造現場についても「MESを⼊れた⽅が良い」「機器と設備、システムがつながらないといけない」「現場では紙の⼿⼊⼒をデータ化していてボトルネックになっている」という理解は進んでいます。また今後、グローバルでシステムを統⼀しなければいけないが、⼯場ごとにプロセスやシステムが異なっており、それをどう解決してシステム構築していくかといったことへの関⼼度は⾼めです。

DXの進捗という⾯で⾔えば、DXに対する⼤きな絵を描き終わった、または描いている途中という企業がほとんど。DXに必要なシステムの選定と、それらをどう連携させていくかというロードマップのどこかに位置しています。⾃動⾞や電機メーカーは着々と進めており、2019年下期からは⾷品、飲料、医薬品のいわゆる三品業界がDXに本格的に取り組み始めています。

Pro-faceの新戦略~どんなものにもつながるIoTゲートウェイ~

ーー2021年はこうしたDXの動きに対してどう取り組んでいきますか︖

(⾓⽥)2021年の製造業は⽣産能⼒を増強する設備投資は減り、DXやITに対する積極投資が⾒込まれています。かつての(株)デジタルの時代は装置メーカーにHMIを販売するのが主で、設備投資に連携したビジネスでした。それがシュナイダーエレクトリックになり、HMIに加えて提供できるポートフォリオが増え、DXにつながるソリューションが広がっています。そこが重要なポイントで、我々の⼤きな武器になるでしょう。そのカギを握るのは、やはりHMIのPro-faceです。

もともとPro-faceの特⻑は「圧倒的なコネクティビティー」にあります。これまではHMIの元祖として技術的に先⾏し、どんなPLCともつながることを前⾯に押し出してきました。それがDXの時代になり、つなぐのはPLCだけでなく、センサーや他のフィールド機器、さらにはMESやエッジコンピューター、ERPなど上位のシステムやクラウドまで広がっています。特にこの1・2年で設備のデータをMESやクラウドで使う世界がやってくるでしょう。この流れはPro-faceにとって⼤きな追い⾵であり、チャンスです。Pro-faceはこれを機に「どんなPLCにもつながるHMI」から「どんなものにもつながるIoT機器」という新たなブランドとして展開していきます。

エッジ層でフィールドと上位層をつなげるIoTブランドへ

ーーHMIをフィールドからエッジ領域で活⽤するというイメージでしょうか︖

(⾓⽥)その通りです。Pro-faceはもともと「Professional Interface」の略語で、「何でも接続できる」というコンセプトから⽣まれました。そこに原点回帰し、これからはフィールドよりもちょっと上のエッジ層に君臨するIoTブランドとして展開していきます。例えば古い機械や新しい機械、複数のメーカーの機器が混在するなかで、まとめてデータを集めて活⽤したいというケースには最適です。

2021年1⽉に産業⽤コンピューター「PS6000シリーズ」を発売開始し、エッジコンピューターとして提案をしています。よく使われているのが、PLCから稼働データを取得し、そのまま⼯場のダッシュボードとして利⽤するパネル付きIoTゲートウェイとしての利⽤法です。これだと複数社のPLCや制御機器が混在していてもIoTゲートウェイとしてデータを取って画⾯にも表⽰でき、OPC UAで上位のシステムやクラウドとも簡単につなげることができ、お客様から⾼評価をいただいています。

 
 
 

これからPS6000シリーズをはじめ、IoTゲートウェイなど新製品を多く出す予定があり、DXやIoTに役⽴つブランドとして市場認知のあり⽅を変えていきたいと考えています。また収集したデータを蓄積して活⽤したい、そのための基盤を整備したいという場合も、当社にはEcoStruxureやAVEVAの産業⽤ソフトウェアがあり、Pro-faceと合わせてIoTやデータ活⽤のトータルなソリューションも提供できます。そうしたニーズに対しても⼤きく貢献できます。

 

他社産業⽤コンピューターとの⼤きな違い。単なる箱と必要な機能が搭載されたコンピューター

ーー産業⽤コンピューターは多くの会社から発売されています。それらとの違いは何でしょうか︖

(⾓⽥)確かに国内外のPCや組み込み機器メーカーから産業⽤コンピューターやエッジコンピューターと⾔われる製品が出ています。しかし、これらは「製造現場で使える仕様を満たしたコンピューター」「箱」です。PLCや制御機器とつなげるためのソフトウェアを開発し、実際にそれがつながって機能するかの作り込みは⾃⾝でやらなければなりません。それに対してPS6000シリーズは、PLCや制御機器、クラウドや上位システムとも何でもつながることができる状態で提供している産業⽤コンピューターであり、その実績も豊富にあります。そこは⼤きく異なります。

またPS6000シリーズは⽇本で開発した製品で、それをグローバルに展開し、不具合や故障診断等のサポートは⽇本が⾏っています。海外メーカーの場合、「壊れたら交換すれば良し」が前提になっていて、「なぜ壊れたのか」「再発防⽌をどうすれば良いか」というお客様に対する細かな解析や回答を得るには⼤きな⼿間と時間がかかります。当社はそれを⽇本で⾏っているため、お客様は⽇本メーカーと同じ品質のサポートを受けることができます。製品を使う場所が海外⼯場であっても、当社は世界中に拠点があり、現地でサポートを提供しています。シュナイダーエレクトリックが持つ⽇本の良さと海外の良さを持ち合わせている強みがここにあります。

⽇本企業とグローバル企業の強さを融合。⽇本製造業のDXを⽀援

ーー今後に向けて抱負をお聞かせください。

(⾓⽥)⽇本企業の良さとグローバルで展開するソリューションとのハイブリッドで、当社独⾃の良さを活かしていきたいですね。具体的には、ソリューションを販売代理店・パートナーと⼀緒に提案できる基盤を強化し、Pro-faceをIoTブランドとして、お客様のDXをサポートし、課題解決に向けて貢献していきます。またEcoStruxureのなかにはARソリューションもあります。コロナ禍で現場に訪問できない、熟練者の技術や知⾒を引き継ぎたいというニーズは根強くあります。これらARソリューションを含め、SCADAやMESなどを⼿がける製造業に強いシステムインテグレーターとのパートナーシップも強化していきます。

シュナイダーエレクトリックはこれまで、世界のインダストリー市場で圧倒的なナンバーワンが存在するなかで、強いニッチ分野や領域を作ってそれを広げていく戦略で競争⼒を⾼めてきました。⽇本でも同じ戦略で、それを加速していきます。 またグローバルでは、ダボス会議で2021年世界No.1のサステナブル企業に選ばれるなど、エネルギーマネジメント分野に精通し、そこでの知名度が⾼い。そうした強みもどんどんと発信し、⽇本市場でのシュナイダーエレクトリックのイメージの浸透を促進していきたいと考えています。